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大阪高等裁判所 昭和60年(ラ)226号 決定 1985年6月07日

抗告人

大崎工業株式会社

右代表者

大崎弘造

主文

一  本件抗告を棄却する。

二  抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一本件抗告の趣旨と理由は別紙記載のとおりである。

二当裁判所の判断

一件記録によると次の事実が認められ、他にこの認定を動かすに足る証拠がない。

(一)  昭和五七年九月五日本件土地建物の所有者であつた吉田隆泰は本件建物(但し、住所表示としては羽曳野市恵我之荘六丁目二番四号)から他へ転居し、その旨の住居移転登記が、同五八年五月一三日付でなされている(本件土地建物の登記薄謄本)。

(二)  昭和五八年五月一日売買を原因として前示吉田から三宅弘司に本件土地、建物の所有権が移転され、同年七月一一日受付でその旨の所有権移転登記を経由した。

(三)  同年七月三〇日付で右三宅から抗告人が本件土地建物を次の内容で賃借する旨の賃貸借契約書が作成されている。

期間 昭和五八年八月一日から昭和六〇年七月三一日までの二年間

賃料 月三万五、〇〇〇円

敷金 七〇〇万円

特約条項 本件物件明渡の時は保証金より二割を差引く。賃借権の譲渡転貸ができる。

(四)  同年八月三日受付で、本件土地につき、「同月一日設定、借賃一ヶ月五、〇〇〇円、支払期毎月末日、存続期間五年、特約譲渡転貸ができる。」を、本件建物につき、「借賃一ヶ月一万五、〇〇〇円、存続期間三年、その他は右と同内容」をそれぞれ原因とする賃借権設定仮登記が、抗告人を権利者としてなされた。

(五)  抗告人は、借主抗告人、家賃一ヶ月三万五、〇〇〇円とする同月から昭和五九年七月分までの家賃受取印のある「家賃領収之通」を提出している。

(六)  同五八年八月二日抗告人は本件建物の錠を取替えた代金としてキーセンターサエキ佐伯金物店に二万円を支払つた。

(七)  同月九日付で抗告人は中尾テントから本件建物のパイプ式外装テント張替等の代金として五万円の請求を受け、同月二九日中尾テントに四万九、二〇〇円を銀行振込により支払つた。

(八)  抗告人は、本件建物の片附賃として松本某に対し五万円を支払つた旨の同年九月一〇日付の受取証を提出している。

(九)  同年一〇月三日本件土地、建物につき、債権者株式会社住宅ローンサービス、債務者吉田隆泰、所有者三宅弘司とする抵当権(昭和五三年八月五日設定登記)実行の競売開始決定がなされ、同月四日受付でその旨の差押登記が経由された。

(一〇)  同月五日から一一月四日までの抗告人の電話ダイヤル通話料は四〇円であつた。

(一一)  同年一〇月一九日抗告人は本件建物の特殊ゴミ処理手数料一万五、〇〇〇円を支払つた。

(一二)  同月二一日抗告人は本件建物の電気使用を開始しているが、同日から一一月八日までの電気使用料は四五キロワットであつた。また本件建物の同年九、一〇月分の水道使用量(一〇月一一日検針)は一立方メートルであつた。

(一三)  同年一一月二日午後三時三〇分から五〇分までの間執行官は本件土地、建物の現況調査として、現況の見分、近隣の事情聴取、写真撮影を行なつた。

その結果は、本件建物は戸締りがされていて無人の状態にあつて一階東側出入口の外装テントに「大崎工業(株)」の記載があり、南側入口近くの壁面に取付けられた郵便受に「大崎工業株式会社、羽曳野市六丁目二番四号」の表示があつて、その郵便受に同日付の「ガス使用量お知らせ」の紙片が投函されていたが、これによると検針日は一一月二日となつているにもかかわらず、メーターの指示数は前月検針と同様で、前月以来一一月二日までのガス使用量は〇であつた。

なお近隣の主婦の話では、本件建物は吉田隆泰(債務者)が同年二、三月頃まで居住していたが、その後空家となり、三宅弘司は知らないし、抗告人の看板の書かれた時期、居住の有無は知らないとのことであつた。

(一四)  競売不動産評価人河合睦博は右同日現地調査したが、占有状況につき「現況空家であるもよう」と評価書に記載している。

(一五)  同年一一月一一日執行官は登記簿上の賃借権者たる抗告人に対し本件土地、建物の「使用者(占有者)」について書面で照会したところ、抗告人から同月一八日次の回答が寄せられた。

1  使用者(占有者) 抗告人

2  使用開始日 昭和五八年八月一日 住居、店舗、倉庫として使用。

3  使用部分 土地、建物全部を使用

4  賃貸人 三 宅 弘 司

賃借人 抗告人

5  以上の外の本件土地、建物使用者、堺市百舌鳥本町三ノ三ノ八株式会社桐井

その他、賃料の支払、賃借契約、保証金、特約等は前示(三)のとおり。

(一六)  昭和六〇年四月二日抗告人は原裁判所の書面審尋に対する意見書において本件建物を従業員の寮として使用している旨述べている。

以上の各認定の事実を考え併せると、抗告人は本件土地建物の差押えの効力発生日たる昭和五八年一〇月四日より前に外装テントを取り付ける等、一応形式的には占有の外形を整えたものといい得る余地がないではないが、同日以後の前認定(一〇)ないし(一四)の事実に照らすと、右差押えの効力発生前に用法に従つた使用収益をなしていたものとはいえず、その使用状況等についても、抗告人は前認定(一五)1ないし4において本件土地、建物を全部抗告人が使用していると答えながら、一方では同(一五)5においてそれ以外に本件土地建物の使用者として「株式会社桐井」を挙げており、また前認定(一六)のとおり原裁判所の審尋では本件建物を従業員の寮として使用している旨述べるなど、甚だ矛盾した陳述をしているばかりでなく、賃貸人に支払つたとする敷金(保証金)の額も不相当に高額であり、その賃貸借仮登記もそれが先順位の抵当権、根抵当権等に遅れた最後順位のものであることなどに照らすと、右は本件土地建物の賃貸借としての本来の用法に従つた使用、収益を目的としたものではないというほかなく、抗告人が本件土地、建物を差押えの効力発生前から民事執行法一八八条、八三条一項所定の「権原により占有している者」でないと認めるのが相当である。

したがつて、原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官廣木重喜 裁判官長谷喜仁 裁判官吉川義春)

抗告の趣旨<省略>

抗告の理由<省略>

物件目録<省略>

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